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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)20号 判決

控訴人(原告、亡樋川秀文訴訟承継人) 樋川美 外四名

被控訴人(被告) 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。原判決記載の本件山林が保安林でないことを確認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所も、本件保安施設地区指定処分が無効であることを前提とする控訴人らの本訴請求は失当であると判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決が理由中に認定判示するところと同一であるから、その記載を引用する。

一  指定の予定の通知及び指定の通知が訴外森宮にされなかつたことを理由とする指定処分無効の主張について(補足)

原判決一一枚目表四行目の次に、次のとおり加える。

そして、以上の理は、指定の予定の通知と指定の通知の双方が山林所有者に対しされなかつた場合にも異なるところはなく、また、森林法に定める保安施設制度のもつ高度の公共性、指定により山林所有者の被る不利益の程度、内容及び補償に関する定め(法四四条、三四条、四五条、なお、保安林につき三四条の二、三五条参照)、ならびに、右のように解しても山林所有者として処分を争う機会を全く奪われるものではないこと(行訴法一四条、特に三項ただし書参照)に鑑みるならば、法の右のような解釈は、なんら財産権を不当に侵害するものではない。

二  本件指定処分時における山林所有者について

控訴人らは、本件指定処分の無効を主張するのに、本件山林の所有者が当時訴外森宮であつたことを前提としているが、当裁判所は、右主張はその前提においても誤つていると考える。その理由は、次のとおりである。

成立に争いない甲第一号証、原審証人白木源一の証言によつて成立を認めうる乙第五号証によれば、九七九番山林の土地登記簿は昭和四〇年一月火災によつて焼失したが、昭和三〇年当時の登記簿上の名義人が訴外森宮であつたと推認することができるし、右山林を昭和一七年ころ訴外森宮が訴外柳瀬市兵衛から買い受けて所有権移転登記を経たものであつたことは当事者間に争いないところであるけれども、後に判示する諸事情を併せ考えると、これだけでは、本件指定の予定及び指定処分当時訴外森宮が九七九番山林の所有権者であつたと認定するには十分でなく、その他これを断定するに足りる証拠はない。却つて、前掲白木証言、乙第一五号証、白木証言によつて成立を認めうる乙第一ないし第四号証によれば、昭和二一年三月三日、訴外中山亀太郎が訴外山田定吉を介して訴外森宮から九七九番山林及びその隣地(九七二番)を代金八一七四円で買い受け、代金は支払つたが登記名義はそのままであつたこと、昭和二二年一〇月右九七二番は自作農創設特別措置法によつて国に買収されたが、その後昭和二五年三月、村は中学校建設敷地として――九七二番については右のように買収されていることを看過して――この二筆の土地を訴外中山から買い取ることとし、村議会でその旨の議決がなされ、買収予算も承認された上、昭和二六年四月七日訴外中山に対して右二筆の買受代金として一万円が支払われたこと、その際訴外中山から村に対して、「不動産登記権利書」と題した訴外森宮から訴外中山あての売渡証と訴外森宮名義の登記委任状及びこれらに押捺された印影に合致する印鑑証明が交付されたが、登記名義は変更されぬまま経過したこと、その後中学校新築の計画が具体化されなかつたため、村はこの二筆の土地に檜を植林するなどして管理していたが、昭和三〇年に至つて、本件指定の問題を生じたこと、以上の事実を認定することができる。原審証人森宮隆治の供述中には、右乙第一、二号証の同人の印影を否認するなど、右認定に反するところが少なくないが、右供述を検討すると、同人と大島町差木地財産区との間の訴訟の係属とか、甲第三号証の和解の成立の事実とか、控訴人ら先代である亡樋川秀文への本件山林の売渡とかの記憶さえ曖昧なことが認められ、証言全体として心証を惹くところがなく、到底措信しえない。

以上によれば、旧差木地村は正当に九七九番山林の所有権を取得していたものと認めることができる。もつとも、成立に争いのない甲第三号証によれば、訴外森宮は、大島町差木地財産区との間に九七九番山林の帰属に関して訴訟が係属した上、昭和四七年一二月二二日成立の訴訟上の和解によつて本件山林の所有権の確認を得ているのであるから、控訴人ら先代への本件山林売渡によつて単純な二重譲渡の関係が生じた場合と同視することは相当でないにしても、昭和二九年の本件指定の予定及び昭和三〇年の本件指定処分当時を律する上には、この和解の結果は無関係というべきである。そして、本件指定予定通知及び指定通知は、単なる登記簿上の所有名義人に対してすべきものではなく、実体上の所有権者に対してすべきものであるから、結局、所有者を旧差木地村としてなされた本件指定処分には通知の相手方を誤つた瑕疵はなく、訴外森宮に所有権があることを前提とする控訴人らの主張は理由がないというべきである。

よつて、控訴人らの被控訴人に対する請求は、これを棄却すべきであり、これと同旨に出た原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に則つて、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦 倉田卓次 高山晨)

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